フリーランスでありながら企業の重要ポジションの役割を担うインテリム人材。今回リシュモンジャパン株式会社の元CEO西村豊さんに、経営者の視点から、そして働く人材としての視点から、インテリムの意義や可能性についてうかがった。
--インテリム(Interim)は海外では良く知られている仕組みですが、日本ではまだ活用の機会はそれほど多くありません。西村さんは過去にGEグループにおけるCFOや、リシュモンCEOなど、外資系企業の経営ポジションを歴任してこられましたが、その当時インテリムについてご存じでしたか?
西村:私が日本法人の代表を務めていたリシュモンでは、グローバル全体の仕組みとしてインテリムマネジメントという制度がありました。
当時2010年頃だったと思うのですが、リシュモンが保有するブランドの一つで日本事業のCEOが空席になってしまったことがありました。その際、このインテリムマネジメントの仕組みを使って、後任が見つかるまでの間、一時的にそのブランドの日本のトップを代行してもらいました。インテリムについて初めて知ったのはその時でしたね。
その方は元々そのブランドで働いておられた方で、おそらくアーリーリタイアをされた50代くらいの方だったと思います。日本での経験もあって、業務を遂行する上での知見や能力については実証されている方だったので、非常に安定的なオペレーションができました。その間、しっかり時間をかけて後任を探すこともできましたし、インテリムが非常にフィットした例だったと思います。
--その時のインテリムに対する印象はいかがでしたか?
西村:すごく便利な仕組みだと思いました。先ほどの繰り返しになりますが、やってみないと分からないという人ではなくて、ちゃんとした能力や経験値がはっきりしている人だったので、そういう人材を期間限定で活用できるのは大きなメリットがありました。
少し変な言い方にはなりますが、その人の将来のキャリアパスを考える必要がないというのも良いですね。その人はその人で、別に社内で次のステップを考えているわけではなく、1年ぐらいで後任を我々が探せば、自分はまたセミリタイアの生活に戻る、といった考え方をされていたと思います。この期間でこの役割を担うという、非常にミッションがはっきりしているのがインテリムの特徴ですね。
ただ本当に企業風土とか求められるスキルがマッチしているかどうかは、やってみないと分からない部分が多いとは思います。それは正社員の中途採用でも同じなのですけどね。人材のこれまでのキャリア、経験やスキルなどはある程度知ることができると思いますけれど、クライアント企業が持っている戦略や企業風土、そういったところとの相性は分からない。それらに慣れて習得する助走期間がどれくらい必要かとか、その時々の状況によっても変わってくる気がします。でも仕組みとしてはもっと定着してもいい仕組みだと思います。
--経営者の立場から、インテリムを使うメリットはどういう点にあると思いますか?
西村:今後は色々な働き方が必要になってきますし、休職なども増えています。一番身近な例であれば産休とかですね。男性も育休で休職したり、あとは介護とかもそうですね。親の介護で急遽働き方を変えなくてはいけないようなケースもあります。そういった事情がなくても、平常運転の中でポジションが1年ぐらい空席になることも少なくないですし、インテリムで間を埋められるというのは大きなメリットだと思います。
あとは何らかの事情で前任者が辞めてしまったりした時ですね。後任を探すための時間って、シニアなポジションであればあるほど長くなり、6ヶ月から12ヶ月は普通にかかる。いい人が見つかったとしても、その人が現職を離れるまでの時間も考えると、だいたい12ヶ月くらい見ておく必要があります。その12ヶ月間の間、そこのポジションを空席のままでいくのは難しい。そういった際にもインテリムのニーズはあります。
なお私がリシュモンの前に所属していたGEグループでは規模がかなり大きかったので、そういった時には、サクセッションプラン上、次の候補者みたいな人を短期間のストレッチアサインメントで使うケースもありました。それでうまくいけばよいですし、そうでなくても足りない点は何かを知り今後の成長の糧にしてもらう、といった使い方ですね。とはいえ、これはよほど人材の層が厚くないとできないことでしょうし、インテリムの仕組みというのはニーズがあると思っています。
--逆に留意点はどういうところにあると思いますか?
西村:先ほどの繰り返しになりますけど、やはり優秀な人であっても組織のシニアなポジションの職務を担うには、その会社の戦略や文化を理解した上でないと、良い仕事ができない。短期間とはいえ、対話をして組織のエンゲージメントを高める能力が必要で、そういった会社の戦略や文化を理解し、その中で最適な行動ができる柔軟性が求められる。それができる人材をちゃんとマッチングするというのがチャレンジだと思います。
どうしてもやってみて初めて分かる部分もあるので、ある程度は合わせられるというか、柔軟性を持った人でないといけない。もちろん経歴や実績を見れば多少は分かるかもしれませんけれど、新しい環境で、もしかすると何十人という部下がいる中で仕事をするわけです。そのような中、50人なら50人のリーダーという状況で立ち回れるための人間力のようなものが求められると思うのです。
やはり周りの部下の方々も、この人は短期間だけ職務を担う人だと分かっていても、その人と働くことによって何かを学べるとか、そういうものを感じれば感じるほどエンゲージメントが高まるはずです。重要なのは、スキルとか経験だけではないということがチャレンジですね。
--次は働く側の立場から、インテリムとして働くことにはどのような利点や魅力を感じますか?
西村:これはすごく良い機会が生まれると思います。定年に対する考え方が最近は柔軟になってきていて、自分のライフスタイルに応じて、例えば50歳前半で正社員は卒業して、もう少し柔軟に長く働きたいといった人が増えている。
もちろん人それぞれ価値観が異なるので、中には「仕事はもうあまりしたくない」とか「家族と趣味に専念する」人もいると思います。けれど、一旦フルタイムの仕事には区切りをつけるものの、自分の培ってきたものを活かし、かつ自分自身もさらに成長していく機会を求めている人はたくさんいると思います。
また、もう少し若い年代であっても、インテリムのような役割を経験することによって、自分自身が一回り二回り大きくなることで、逆に50代くらいで自分が本当にやりたい仕事に出会うとか、そういったケースも生まれるのかもしれないなという気がしています。むしろ若い人の方がそういった柔軟性があるのかもしれないですね。
今、優秀な人材の流動性というのは日本全体が抱える課題でもありますが、自分の次の仕事をどうするかとなったときに、基本的にはどこかの会社の正社員になることを目指す人がまだまだ多い。そして正社員になれないと、いわゆる非正規と呼ばれている仕事に甘んじるしかない。そのような考え方をされることが多い。
でも本来は、正社員か非正社員かではなく、仕事の質の方が重要なのです。高い専門性を持っていたり経営に近い仕事をしてきた人たちの中に、柔軟な働き方の機会が生まれるというのは、日本の社会が抱えている労働の流動性を高めるという点でも、必要とされている仕組みだと思います。
--最後のご質問になります。海外では良く知られたサービスとして定着しているインテリムですが、今後日本でも活用は進みそうでしょうか?
西村:進むと思いますね。どれくらいのペースかは、予想が難しいですけれど。ただ今の時代、旬の産業が割と変わっていくじゃないですか。その産業が変わるタイミングでうまく活用されると、結構早く浸透していく気もしています。
例えば、生成AIをコアにしたビジネスが増えてきて、そこに人材の需要が急速に増えたとします。一方で、その影響を受けて需要が減る産業というのもあると思います。そうしたときに、それら分野に関わる労働人口の比率が急に変わるかというと、必ずしもそうではないと思う。正社員のポジションを手放して新しいところに飛び込むのは、結構ハードルはあるでしょうから。
優秀な人材がうまく成長する分野へと移動していく過程において、いちいち「退職します」「就職します」という流れではない部分ができると、もう少し労働移動のハードルが下がると思います。
30代くらいの頃には、本当に自分にはどういう仕事が向いているのか、まだよく分からない時もありますからね。いろいろ試す中で自分が向いている仕事、好きな仕事が見つかるかもしれない。ですが、正社員というのがあるとなかなかリスクを負って次に飛び込むのは難しい。インテリムの場合だと、契約が変わるだけなので、比較的簡単にいろんなところにチャレンジすることができるわけです。
やはり多様な働き方を求める流れは、現実としてあると思うんですよね。今は女性管理職比率を上げたいという企業も増えていますが、その障害の一つとして、マミートラックといって本来の昇進コースから離れてしまうケースもあります。それで退職してしまったりする。本来、能力があるのに機会を失ってしまう人たちがいたときに、インテリムの働き方を通じて自分の能力を発揮できる。そのようなニーズはいくらでも出てくるはずです。
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